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【地の部】 本膳物語

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ヒゲタさん、しょうゆは、
もっと旨くないとあかん。

「本膳」の開発は、ヒゲタの古くからのお得意先である、「つきぢ田村」の初代社長、田村平治氏のひと言から始まった。
「ヒゲタさん、しょうゆは、もっと旨くないとあかん。わしらはお造りのつけじょうゆは、しょうゆに鰹節のだし汁を入れて加工し、土佐じょうゆのようなものを作りお客さんに出しているが、これは、今のしょうゆが旨みが少なく塩からいから、やむを得ずやっていることで、しょうゆがもっと旨く、塩分も低ければ、そのままお客さんに出せる。それに加工した土佐じょうゆだと、魚が赤身でも、白身でも、貝類でも、みんな鰹節のだし味になってしまう。素材それぞれの味を引き出す旨いしょうゆを考えてみなはれ。」
昭和61年(1986年)の正月のことであった。

営業、商品開発、製造、研究の各部門が、衆知を集めてこのテーマに早速取り組んだ。
商品設計としては、

  1. (1)現行の濃口しょうゆ(16%台)より食塩分を少なくすること(15%台)。
  2. (2)旨み成分(総窒素分)を現行の特選しょうゆ(1.7%)より多くすること(2%狙い)。
  3. (3)色は現行の濃口しょうゆより淡く仕上げること。

の三つを基本とした。

挑戦し続けた。こだわり続けた。

実際に試験醸造を始めてみると、この設計が、いかに難しいものであるかが分ったが、1616年の創業以来、関東最古の醤油醸造蔵の伝統技術をベースに、最近の醸造、醗酵技術を駆使してこの難題に挑戦した。

  1. (1) 原料
    大豆。特に厳選した高蛋白原料である醸造用加工大豆を使用して旨味成分の増強を計った。(油分を多く含んだ丸大豆では、目標とする旨味成分を醸し出すことは不可能であった。)
    小麦。良質の蛋白、澱粉を多く含んだものを厳選して使用。
    大豆と小麦の配合は、通常より小麦の比率を多くし、甘みと、より良い香りが醸し出されるようにした。
  2. (2) 製麹
    高蛋白、高澱粉の原料を充分に生かすことの出来る麹菌を選択、育成して活用した。
  3. (3) 仕込
    高蛋白、高澱粉の麹を、仕込塩水の量を通常より少なくして、濃厚仕込を行った。
  4. (4) 諸味管理
    上記の濃厚仕込の諸味を醗酵、熟成させることは至難の技である。すなわち諸味が固くなり、乳酸醗酵や、アルコール醗酵が不充分になり、蛋白質や澱粉の溶解は進まず、色が濃くなってしまうのである。
    この難題を克服したのが、ヒゲタで開発した「低温諸味醗酵法」であった。この方法は、昔ながらの「寒仕込」を現代の技術で再現したものと言える。すなわち、仕込初期は、「厳冬の仕込」の状態に保ち、その後、徐々に諸味が目ざめて「初春の醗酵」、「夏の醗酵」を経て「秋の熟成」に達して「本膳諸味」が完成した。
  5. (5) 圧搾
    諸味を布に入れ、積み重ね、搾り、雑味の出ない部分だけを製品化した。
  6. (6) 火入
    通常のしょうゆよりソフトに加熱処理をすることにより、赤ワインにも似た冴えのある赤味、コクがありながら、マイルドな味、さわやかな食欲をそそる香りに仕上げる。
  7. (7) 詰
    品質保持のよい容器(ガラスびん、缶、バッグインボックス)を選択し、出荷量に合わせて生産し、「フレッシュローテーション」(新鮮な状態で流通)を心がける。

こうして、昭和63年(1988年)5月、2リットルびん詰6本カートン入り、「高級割烹しょうゆ本膳」というネーミングで発売した。
田村平治氏のお話しから、2年5ヶ月後、十二代濱口吉右衞門、社長就任の翌年であった。

ヒゲタさん、ようでけた

最初の製品を「つきぢ田村」へ持参し、初代平治氏、二代目暉昭氏、三代目隆氏、そして料理長の乗附英明氏に味を見ていただいた結果、「ヒゲタさん、ようでけた。」とお墨つきをいただき、有難いことに「つきぢ田村」でご使用いただくのはもちろん、「つきぢ田村」で修行され、全国各地で活躍していらっしゃる田村会のメンバー全員に「本膳」を紹介して下さることになった。
まさに、銚子の地でヒゲタの技術陣が、原料を厳選し、造りにこだわって、必死の努力をした結果生れ、江戸の地(東京築地)発で、営業のたゆまぬ努力と相まって、味にきびしいプロのお客様を中心に、全国の地へと広がっていったのである。

翌年、一般消費者からの要望にお答えするため、家庭用の容器、360mlびん詰、720mlびん詰を発売。更に、大口ユーザーのために18リットル缶詰、18リットル、10リットル詰のバッグインボックスを発売し、業務用も家庭用も年々、出荷量が増えており、ヒゲタしょうゆの高品質のシンボル商品として大きな柱に育ちつつある。