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【天の部】 高倍物語

天の部 高倍物語天の部 高倍物語

この日本で唯一の醤油と料理の神様、
高倍の神

ヒゲタ銚子工場の正門の右手に醤油醸造の神様をお祀りした「高倍(たかべ)神社」がある。
毎月5日に幹部社員が揃って参拝し、良質な製品の出来上りと工場の安全を祈願している。

この高倍神社は、第十三代田中玄蕃直太郎(金兆子と号し「醤油沿革史」などを著した。)が醤油醸造家にも守護神があるはずだと考え、いろいろ調べた結果、高倍神という神様があり、そのご本体は磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)であることがわかった。命の業績をあらわした最もゆかりの深い南房総に行き調べたところ、安房郡千倉町(現、南房総市)の高家(たかべ)神社に命が祀られていることが確認された。

千葉県南房総市千倉町
高家(たかべ)神社

高家神社と磐鹿六雁命のことについては、高家神社のパンフレットに下記のようにしるされている。
『「日本書記」の第十二代景行天皇53年冬10月の条に祭神・磐鹿六雁命について記されているが、延歴8年(789年)に命の子孫である高橋氏が朝廷に奉ったとされる「高橋氏文」にさらに詳細に記述されている。
景行天皇が亡き皇子日本武尊の東国平定の事業を偲び、安房の浮島の宮に行幸された折り、侍臣の磐鹿六雁命が、弓の弦をとり、海に入れたところ堅魚を釣りあげ、また砂浜を歩いている時、足に触れたものを採ると白蛤(はまぐり)がとれた。磐鹿六雁命はこの堅魚と白蛤を膾にして差上げたところ、天皇は大いに賞味され、その料理の技を厚く賞せられ、膳大伴部(注=子々孫々天皇の食事を司どる役)を賜った。
これにより磐鹿六雁命(尊称高倍神)はわが国の料理の祖神となり、宮中大膳職の祭神であると同時に、ここ安房、千倉に鎮座する延喜式内社高家神社の祭神として祀られている。また、大いなる瓶(かめ=べ)に例え高倍さまとして宮中醤院で、醤油、調味料の神としても祀られている。』(「高家神社由来」より)

このご縁を大切にしたい。
そして神、天の恵みに感謝しよう

この日本で唯一の醤油と料理の神様、高倍の神を明治44年にヒゲタの御用蔵が完成したときに田中金兆子が千倉町の高家神社から分祠していただき、蔵の前におまつりした。
その後、昭和14年(1939年)4月、現在の第二工場の入口に遷座してお祀りすることになったものである。

ヒゲタは日本で唯一の醤油の神様をお祀りしている唯一の醤油醸造会社である。しかも、千倉町と銚子は同じ千葉県、黒潮の流れでつながる房総半島の南と北に位置している。このご縁を大切にしたい。そして神、天の恵みに感謝しようという考えから、高倍神社にちなんだ製品を造り、千倉の高家神社に奉納することを目的に試作にとりかかった。
平成8年(1996年)春のことであった。

千葉県南房総市千倉町
高家(たかべ)神社
  1. (1) 原料
    太陽、水、土、自然の恵みに感謝し、厳選した国内産の大豆、小麦、食塩を使用することとした。
  2. (2) 製麹
    通常の製造工程と区分して蒸した大豆と炒って割砕した小麦を合わせ、特別の麹菌を使って麹を育て上げる。
  3. (3) 仕込
    自然の四季の移りかわりに合わせて、一年で最も寒い時期に仕込み、春、夏、秋、と天然醸造によって醗酵、熟成させ、初冬の11月に完成させる。
  4. (4) 圧搾
    昔ながらの箱槽を使い、熟練した職人が濾布に1枚づつ諸味を包み、積み重ねて一滴、一滴大切にしぼり出す。
  5. (5) 火入
    永年の間に蓄積した火入技術を用い、色と香りを整え、天恵の醤油をさらに磨き上げる。
  6. (6) 詰
    奉納品にふさわしい、神器をイメージした白いガラスびんに詰める。(注:2021年より密封ボトル容器に変更)

試醸を重ね、ほぼ目処がついた時点で、千倉の高家神社を訪ねた。
南房の海を見おろす山の中腹に、こんもりとした森を背に建つ本殿、百年は経ているであろう茅葺きの拝殿、これが昔、田中金兆子がみつけた日本唯一の醤油の神様か、と感動した。宮司の高木幹直氏にお会いし、ヒゲタの社史をお見せして、千倉と銚子のご縁を説明し、「実は高倍という名前のしょうゆを今、醸造中です。出来上りましたら、高家神社に是非奉納させていただきたい。」とお願いしたところ、高木宮司は、「結構ですよ。私共にとってもありがたいことです。」と快諾して下さった。それから話がはずみ、代々神社を守って来た高木家の先祖が昔、夢枕で示された場所を掘ったところ、磐鹿六雁命の神像と鏡が出土したとのお話を聞くことが出来た。又、その先祖の名前が高木吉右衞門だとのこと。「当社の社長も濱口吉右衞門です。」と大いに意気投合した。
11月23日の新穀感謝祭の日に「高倍」を奉納させていただくことをお約束して辞した。

その後、毎年、「高倍」の醸造と奉納を会社の天の恵みに感謝する行事として位置づけて、高家神社へ参拝を行っている。

平成12年(2000年)の10月には、高家神社、地元千倉町、高家神社奉賛会の皆さんの永年の念願であった新拝殿の竣工式が行われる。これを機に、日本唯一の料理の祖神、醤油の祖神を祀る千倉町の高家神社が益々繁栄されることをお祈りすると共に、高家(倍)の神によって結ばれたご縁を大切に天の恵みに感謝しつつ、より良よい品造りに、一層の努力を続けてゆきたい。